「焼津にて」
焼津の伝統的な生活風習や、深くて流れの早い海に観せられた八雲が、夜の海を泳いで感じた原始的な共通記憶を思うがまま綴っている一説なんだけど、これは凄まじい感性だと思った。僕にとって「夜の海」というものは恐怖の対象にしかならない。月の光も星の光もあたらない曇りがちな夜の海など特に。どこまでも広がりる暗黒のうねりや、底深いところで蠢いていそうな未知なるものの気配にに圧倒され、波打ち際に立っているだけでも辛いくらいだ。
灯籠を見たくて衝動的に海に飛び込んでしまうような、日本人より日本を知るギリシャ人(だからこそ?)の八雲はハッキリ言って変な奴だ。目もロンパってるし…。
その感性は、僕のような一般人が言葉だけで「あたかもそう感じたのだと思いこんでいる恐怖」を超えたところにあるんだろうな。
その他、収録された短編すべてが面白くて美しい。
これは今年のベスト5に入る一冊だな。